「ゴリラの鼻くそ」とは何の商品名?
◇はじめに◇
娘が生まれた時、生徒に名前を考えてもらったことがあった。その時、娘に「桃太郎」の名はどうかと提示したところ、猛反対された。なぜかと問うた。そこで「名」とは何かという議論になった。ここに記す言葉に関しての授業は、この体験から始まる。
国語で取り扱う教材のなかで、「指導要領」の〔言語事項〕のうちの「言語の役割、国語の特質の理解」に関する教材は教科書にも少なく、取り立てての言語の指導は無味乾燥と忌避されがちではなかったろうか。ここでは、これまでの授業実践の中から、生徒に出した「ことば」にかかわる課題をまとめて記述してみます。「国語Ⅰ・Ⅱ、現代文」の授業で、ときに投げ込み教材として、あるいは言語単元の導入・まとめとして使ったものです。言語学(国語学)を専攻した者ではないので、不審に思われる点も多いと思うのですが、生徒が、いつも使っている言葉に目を向け、言葉の間題や不思護さ、面白に関心を持ってくれれば、それでよしとしました。
◇課題◇
一・概念と認識・…ことばとことばの指し示すモノとの閣係
1、ヘリコプターは飛行機か。「なぜならば」と理由を説得的に述べよ。
(千野栄一「言語学の散歩」による。2も)
2、アパートとマンションの違いを述べよ。〈概念の形成〉
3、赤ちやんの言う「ウマウマ」「ブーブ」は、何を指すか。
☆1~3・国語Ⅰの最初の授業で、「国語で何を学ぶか。国語の力とは何か。」を主題にした授業で扱った。生徒は、国語の力を、漢宇力・読解力と答えるが、より広く深く世界を認識する力として国語力をとらえ、状況認識の力は、どのようにして深まるかを考える中で提示した。
以降9までの課題で、言葉を自分がどのように獲得してきたかのか、「言葉の意味」に意識的になったことがあるか、等、言葉に関する「体験」を振り返ったりもした。
4.「石」「机」「上」「正」「愛」「国家」のそれぞれの語の意味を述べよ。〈これは○、これは○でないという基準〉
それぞれの語の定義が、人間の視点からのものであることの確認をして、言葉が人間の「道具」であること、「言葉」で創り上げられた「文化」もまた人間の視点での世界認識に他ならないことを考えた。
5、分子式〔H2O〕で示きれるモノについて、日本語ではどのような語〈表現、認識の仕方〉があるか、類するモノをたくさん上げよ。
雲・川・涙・・・・最低20は挙げよと指示。
6、次のそれぞれの違いを述べよ。
ア、「つらら」と「氷」
イ、「春雨」と「タ立」
ウ、「水」と「湯」(英語ではどう言うか)
7.雹・霰・雪・霧・霞・靄・雨・雲の違いを述べよ。
8.色の名称を調べよ(どんな物を色の名にしているか・古語も)
9、これまで考えたことをもとに、モノと言葉の関係について考えてみよう。
☆4~9・鈴木孝雄の「ことばと文化」・「ことばと社会」を読むにあたって整理させる意味で提示したり、このままの形で提示もした。
10、次の語の意味関係を述べよ。
森・林、
美しい・きれいだ、
木・樹木・材木・板・柱
昨年・去年
二・記号・シンボル
1.次の語の違いが分かるように絵・図で示せ。
①りんご、みかん、なし
②はえ、ゴキブリ、せみ
③野球、サッカー、バレー、バスケットのボール
④さくら、うめ、はな
⑤ヨット、ボート、ふね
⑥おとこ、おんな
⑦通知表、成績
⑧休み、休憩
⑨自由、平和、平等
☆ことばの性質〈特に記号性〉に気がつくために、「今日は国語の実験です!」といって、ザラ紙を配り、提示。
絵や図で示した物を、次に言乗(文章)で説明させた。
②③が絵で書き分けられない者に「知っている」とは、どういうこどか考えさせた。
④⑤抽象度が高くなるにつれて、絵が図〈シンポル〉になることをつかむ。
⑥記号と言葉の関係について考える。言いたいことを言わせて、特に結論めいたものは出さない。
⑦~⑨生徒はぶつぶつつ言いながらも、各自の生活感覚にあった絵・図を書いてる。(生活感覚の違いが、言葉の認識の違いと して現れる。また、時代状況の変化に対応して描かれる。特に自由・平和を図にするにあたっては時代状況が顕著に反映していた。いつからのことだったか、平和が「鳩」から「日の丸」に変わったのはショックだった)
2、こどばと絵・図のもののとらえ方〈表現方法〉の違いを考えてみよう。
3、商品(モノ)と商品名(モノの名)の関係はどのようか、次の例から考えよ。
雑誌名・ラーメンの名
「ゴリラの鼻糞」とはどのような商品か。
☆恣意性に気付くまで、雑談のような問答。
4.「元祖ゴキブリラーメン」という商品が、この世に存在しないことを、言語の性質上から考えよ。〈論文課題〉
☆説明なしに、この課題を出すど、感覚的なところでしか答えない。論文には論理の展開があること、これまでにみた言葉の性質・機能を書き出すことを指示。(理系の生徒の方が反応がいい)
〈千葉栄一の「日常のなかの言語学」による〉
5、自分の名前の意味を調べてみよう。名付けた人の込めた思いを聴いてみよう。
三、こどばの意味〈指示対象〉…言葉は文脈の中で意味を持つ。
1.次の①~⑦の「目」の指示対象の違いを述べよ。
①このレンガは四角い。 ……彼の目は丸い。
②このレンガは赤い。 ……彼の目は育い。
③このレンガは黒い。 ……彼の目は赤い。
④このレンガは重い。 ……彼の目は大きい。
⑤このレンガは固い。 ……彼の目はいい。
⑥このレンガはへこんでいる。……彼の目はへこんでいる。
⑦ ……彼の目は優しい。
(古文の単語の意味調べの時にも、文脈の中で意味が生じるという話は繰り返す。辞書にある意味だけではうまく訳せないときは、書き手の意図を考えて訳すことも示した)
2、次の句・文の意味は?(1にも関連)
①目が高い。 ②目に余る。 ③目がきく。
④目がどどく。 ⑤ひどい目にあう。 ⑥目をかける。
②台風の目。 ⑧作家の目。
⑨このパンはうまい。 ⑩うまい話に気をつけろ。
⑪口のうまい奴だ。 ⑫歌がうまい。
☆慣用句のプリント学習を挿入〈語彙学習〉
3、「犬」を、次の指示のように解説しなさい。
①百科事典風に。
②幼児への説明風に。
4、「青」という語の使われ方について、いくつかの用例をあげて、考えてみよう。
5、類義語(同義語)をあげよ。〈使い方〉の違いを考えよ。
例 ①手紙・書簡・レター、 ②人・人間・人類、
③ピーナッツ・南京豆・落花生、
④縄・網・紐・糸、 ⑤上がる・登る、
6、類義語を分析し、意味範囲〈使い方〉の違いを記せ。
①例のような類義語をあげよ。、
〈例ⅰオリル・クダル・サガル・オチル
ⅱメクル、マクル、ハグ、ハガス〉
②和語の動詞から一組を選び
i 共通して使える例
ⅱ 意味の異なる例
ⅲ 一方しか使えない例を上げ、
使い方の違いをはっきりさせよ。〈論文課題〉
☆柴田武編の「ことばの意味」の中の一編を読んだ後で、それに倣って論文を書く課題。、用例をたくさん集めることを指示し、グループで討議した後、レポートを書かせた。(論文課題としては、形の整った面白いものが多く提出される課題だった。グループでなく個人学習としたこともあった)
7、次の例から、「が」と「は」の違いを考えてみよう。
①桜が咲いた。 桜は咲いた。
②×本が読んだ。 本は読んだ。
③私が山口です。 私は山口です。
④×あなたが誰ですか。 あなたは誰ですか。
☆生徒には解明できず、説明することが多い。〈大修館国I〉
8、「水が増えていく」と「水が増えてくる」の違いは何ですか。
四・伝連機能
1、親しい者同士では「あれがあれして……」で話しが通ずるのはなぜ?
2、発表者の説明を聞いて、それを絵で書きあらわしなさい。
☆「今日も実験」と言うう訳で、発表者数人にこちらで用意した面白い「絵」をみせ、説明させる。描いている者にも質問させる。書記を置き説明の要点を記録する。〈発表者には生徒達が描いている絵はみせない〉
聞き書きしたもの同士の絵を見せ合い、違いをもとに質問。出来上がった絵を発表者に見せ、補足させる。結果をみながら、伝える為には何が必要かを考える。
観祭・認識力→基本的特徴がつかめたか。
語彙→共通するイメージ・概念があるのか。
(自分だけ分かっていることを、言葉だけで伝えることがいかに難しいかを実感させ、言葉の誤解と有用性をともに考えさせた)
3、次の絵を正確に伝連できるようにこどばで描写しなさい。
☆描写・伝違の目的を想定する。
4、「l~3」から比喩の効果を考えてみよう。
☆「知る、解る」ということ・「説明する」とは、どういうことか、を考えた。
5、①トランプの「ババ抜き」、②野球のダブルプレー、のわかりやすい説明文を書いてみよう。(誰に何を説明するか、解っていることを過不足なく言葉にすることの難しさについて考える)
五・表現〈伝達の目的・状況・心情と表現方法〉
1.「人に迷惑を掛けたので謝罪する」時のことばを様々な場面を想定して記しなさい。
①子供に向かって ②友人に ③先輩に ④校長に
ⅰ電話で ⅱメールで ⅲ手紙で
2.言葉(文字)としては同じモノが意味が違ってくる状況を例示しなさい。
(「愛してる、だから生きて」「愛してる、だから一緒に死んで」)
3、「よろこび」の様々な言語表現を考えなさい。
☆教出国Ⅱ「日本語の自称詞」の後の「言語の学習」も問う。
4、「文は人なり」とはどういうことだろうか。
☆芳賀綏「文章について」を後で読む。
六・日本語と外国語〈認識と文化と語彙〉
1.日本語では、自称詞にどのようなものがあるか。
2.日本語では、相手を呼ぶとき、どのような語が使われるか。
3、日本語と英語を比べ、意味範囲の違う例を上げてみよう。(トランク=旅行鞄を英語の辞書で引いてみる)
4、髭・鬚・髯の英語を調べよ。〈ひげ〉
5、語順は判断の順。その違いを明らかにする。(私は山に登れない→英語・漢文にせよ)
☆池上嘉彦「言葉についての新しい認識」・西江雅之「文化と言語」・鈴木孝雄「日本語の自称詞」のどれかを読んで。
七・日本語の特色
Ⅰ、音韻上の特色
①五十音図を記せ。
②「橋」「端」「箸」のアクセントは?
Ⅱ、日本語の構造〈他言語との比較・助動詞の接続順〉
Ⅲ、語彙上の特色
①同音語・同義語が多いのはなぜか。
☆同音異義語・類義語の漢字学習プリントによる
②擬声語、擬態語をあげよ。
③「雨」を表す語彙をあげよ。
④「生」の読み方をあげ、その用例を記せ。
⑤「早い電車」と「速い電車」の違いは?
⑥「十分、工夫、心中、強力・初日、物心、色紙」の読み?
⑦「はかる〈測・量・計・図・謀・諮〉」の例文を記せ。
⑧和語、漢語・外来語の特質について考えよう。
☆漢字の構造・部首の学習プリント
Ⅳ、表記上の特色
1、日本語表記の文字の種類をすべてあげよ。
2、書式の特色は?
3、漢宇に音と訓があることの効用を考えよう。
☆金田一春彦「漢字の性格」を読む。
Ⅴ、文法上の特色・構造 〈古文の時間にふれました〉
Ⅵ、日本語の変遷・他言語受け入れの歴史と音韻の変化 〈これも古文の時間に講義というより雑談としてふれました〉
◇おわりに◇
生徒が関心を持ちそうな所を摘み食いする格好での課題であって、それゆえまとまりもありません。「言葉への関心を持つ」ことが課題でしたから、一律の解答を教えるのではなく、なるべくあれこれと生徒が考え討議することに主眼を置きました。
扱った内容や時期は年毎に異なっていました。
2021年5月1日土曜日
言語への関心を高めるために
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